先輩メシ


目次
Specialダイジェスト
第1話:「先輩メシ」は、こうして生まれた。
第2話:先輩を越えるのは、後輩の仕事だ。
第3話:自分という「木」を育てる人を増やしたい。

 

君は営業のほうが向いてるよ。

阿部先輩:次は僕が社会人1年目で、人事にいたときに言われた言葉ですね。これは、ちょうどコピーライターになりたくて勉強しはじめたとき。学生向けインターンシップのアテンド(名簿や出欠の管理)をしていたことがきっかけでした。学生たちを見ていて感じたのは、嫉妬。当時、自分と年も二つくらいしか変わらない子たちがクリエーティブの大御所から課題をもらって、すごくキラキラした目でプレゼンテーションしてて。なんか自分もそっち側へいきたいなぁと思ったんです。

クリエーティブは考える仕事だし、自分にはできないだろうと思い込んでました。アメリカンフットボールを8年間ずっとやっていたのもあり、周りからも「きみは営業だよね」「体力ありそうだからメディア系だよね」と見た目で判断されたりして。ただ、彼らのキラキラした目を見て、自分もプレゼンしたいなとか、考える仕事ができたらどれだけいいだろうなと実は思ってたことを猛烈に思い出して。そのときに、気づいたんですよね。好きなことを仕事にしたいのに努力もしないで勝手にあきらめてごまかしてたなと。情けなかったなと。一念発起して、クリエーティブディレクターの方に打ち上げの場で、「僕も自分の心を感動させられるような仕事がしたい。」と言って課題を出してほしいとお願いしたんですね。入社一年目に行われるクリエーティブ試験(電通社内で職種を転換するための試験)までの4ヶ月間、2週間に1回くらいの頻度で課題を出してもらいました。

丸橋:電通のクリエーティブディレクターに、直接会いにいったんですか……、すごい!お前よく行けたなぁ、みたいなこと言われません?

阿部先輩:あー、情けなかった気持ちが強くあったから、ここで行くしかないと思えたんです。ドキドキはしてたんだけど、行けました。でも出してもらった課題のコピーを見てもらうと、よくないよくないよくない…と×をつけられて。これは△かなって言われるのが、30本か40本ある中から1本くらい。試験も一ヶ月前くらいに迫ってて。最終的に、「君は営業の方が向いてるよ。クリエーティブの気持ちがわかる営業になってよ。」みたいなことを言われたんです。

遠回しに、期待しすぎないほうがいいよ、無理かもしんないよ、と言ってくれたと思うんです。でも、自分の心はもう惹かれていて。現時点で全然できてないことなんてわかってるけど、最初からうまくいくわけないじゃんと思ったんです。そのとき、自分の可能性を決めるのは自分なんかじゃないかって、なんとなく思ったんです。人から未来を決められるんじゃなく、自分がどうなりたいかがすごく大事だなと。できるかできないかじゃなくて、やりたいかやりたくないかだけで考えたら、自分はめちゃくちゃやりたい。じゃあその気持ちを大事にしようと。そう思って、試験を突破していったんです。

・阿部先輩がコピーライターになるための挑戦の詳細は、著書「待っていても、はじまらない。―潔く前に進め」や「リレーコラム」をご覧ください。

人事からコピーライターに行くことを、僕としては"挑む"気持ちで試験に臨みました。でも人事局の先輩は、そっちに行くのか、と思ったと思うんですよ。人事の仕事から逃げてると思われたかもしれない。ただ、ひとつのところから出て行くっていうのは、"逃げる"と"挑む"の漢字が似ているように、やってることは同じなんですよ。僕はひとつのところでキツかったら、逃げてもいいし、他のことに挑んでもいいと思ってるんです。そうやって行きたい方向に進み続けていれば、あ、あいつこういうことをやりたかったんだな、というふうに、いつか伝わるんじゃないかと思っています。

良かったな。また、コピーうまくなるな。

阿部先輩:人事からコピーライターに異動したときに、福井さんという方に師事するのですが、その師匠が作ったCMを見ていただきたいと思います。

丸橋:まさしく今の話ですね!

阿部先輩:そうなんですよ。師匠はこのCMのクリエーティブディレクター、コピーライターをされていて、僕が人事から異動しようとしているタイミングで、師匠はこのCMを作っていることに勝手に縁を感じたんですね。

阿部先輩:で、師匠の下でがむしゃらに仕事していたんですけど、まったく成果が出なくて。そのときに、コピーライター養成講座の専門クラスに通って。修行のようにファミレスや会社で寝食忘れて毎週の課題に取り組んで。がむしゃらに働いていても、簡単にコピーなんて書けないし、ましてや自分の案で企画が進むことなんてほとんどない。いわゆる逆境の連続でした。当時は20代の中盤。プライベートでも付き合いをないがしろにしてしまって、色んなトラブルもあったり…。

丸橋:そうなんですか!?

阿部先輩:そうなんですよ。

丸橋:けっこう阿部さんの恋愛観について気になってる方も多くて。追って色々と(笑)

阿部先輩:それはじゃあ、後ほど(笑)

阿部先輩:打合せの合間なんかに「プライベートでこんなことがあったんです」と凹んでることを師匠に話すと、毎回僕に言ってくれたのが「よかったな。またコピーうまくなるな」という言葉で。

うまくいかない時って、いつもより人生について考えるから、心のひだが増えるというか、人の心がわかるようになるんだよな、と。だからまたコピーうまくなるよ、と。ネガティブに思ってたことをポジティブに変換してくれたんです。

よく、逆境をどうやって乗り越えますか?という質問をいただくんですが、僕は「成長」っていうのは上にのびていくイメージだけど、「逆境」は下に成長していく時間なのかなって思っていて。自分を支える根っこみたいなものがすごい伸びていく時期なんじゃないかなと。ある意味、"根に持つ"ことで粘り強く、根強くなっていって、いつか花が咲いていくのではないかと捉えています。

丸橋:根に持つって悪いイメージがありますけど、こう考えると全然違いますね。

阿部先輩:そうだよね。ツラいなーとか、しんどいなーっていう時期もあると思うけど、ああ今きっと自分という根が深くなったり、人間の根が広がったりしてる時期なんだな、頑張んなきゃ、と僕は捉えるようにしてます。それからもっと仕事への姿勢に意識を向けるようにして。やっと実を結んだのが、四年目に入るとき。東進ハイスクールのお仕事で、TCC新人賞*を受賞したんです。逆境みたいなものをくぐり抜けてきたからこそ、実を結んだんだなと思いましたね。

TCC新人賞とは…東京を中心に日本全国で活躍するコピーライターやCMプランナーの団体である「東京コピーライターズクラブ」が毎年、選出した優秀作品の中から与える賞のひとつ。コピーライターの登竜門といえる賞。

出会いを待たない。心の師匠をつくる。

阿部先輩:今まるちゃん何歳ですか?

丸橋:今、26ですね。

阿部先輩:ちょうどそのくらいの歳のとき、僕はコピーライター四年目だったんですね。賞を獲ったことで、会社でいろんな人に声をかけていただいて案件にアサインする機会も増えてきて。仕事の充実感はあったんだけど、ふと思うことがあって。広告賞を獲ると、会社に山ほどいるコピーライターやプランナーの中から少し目立つようになる。それでいつの日か、インターンの講師をしているような大御所の方から呼ばれて一緒に仕事をして。そこからまた選びぬかれていくみたいな。クリエーティブのレールの上で仕事を待っているなと思ったんです。自分のところに来る仕事も、これは賞を獲れそうじゃないなとか、キツそうだとか、そういう態度で仕事をしていることに気づいたんですね。

その時に、そもそもなんで俺は働いているんだと思って。そんな時に出会ったのが二人の人の言葉でした。一つは箭内さんの「広告とは応援である」という言葉。"広告は、広告メッセージは、広告イメージは、応援になる。自分の好きなこと、好きなもの、好きな会社は心から応援したい。その気持ちを広告に託しています。"と。箭内さんは当時、震災前後で福島を応援されていました。誰かに依頼されるわけではなく、勝手に応援しているんですよと仰っていたんですね。

二つめは、小山薫堂さんの「勝手にテコ入れする」という言葉。もっとこうしたら効率よくできるのになとか、あの空間はもったいないなとか、そんな"もったいない"という視点ひとつ加えれば、良くなるものが世の中には溢れてる。それを見つけて、いかに面白くできるかだよという話を聞いて、僕はあぁそうかと思ったんです。

7000人くらいの大所帯である僕の会社で、500人くらいのコピーライターやプランナーといった考える仕事をする人がいる。そんな環境にいて大事なのは、誰かと比べることではなく、自分が一人の人間として「何のために生きて何のために働くんだ」ということじゃないかと。誰かと競い合って賞を獲って上司に報告することが本質じゃない。そもそも、なんでそれを獲ろうと思ってるんだとか、なんで仕事しようと思っているのかという部分がすごい大事だなと。もっと自分のやりたいことを軸にして進んでいけるんじゃないかと思ったんです。

目立ちたいから賞を獲るのではなくて、アメリカンフットボールをプレイしていたときに感じた、みんなと気持ちがつながる瞬間、一体感みたいなものを世の中に作りたい、そのために働いているんだと、考えを整理したことがありました。一体感の最初の"一"になりえるのが言葉なんじゃないかと思って志したんだし、だからこうして今机に向かってるんだなと。自分が応援したいだとか、テコ入れしたい、いやしよう、っていうマインドをどこか忘れてました。

来たものに対してどうするかではなくて、自らアクションすることが大事。自分からもっと働きかけていこうと。それで3、 4年間地べたに這いつくばるような想いで身につけたコピーの力を社会に活かしていこうと思い直して、「コピーを半径3メートル社会に。」という言葉を考えて動きだしました。どデカい仕事なんてどこにもないんです。まず自分が出会う人とかモノとか事とかに焦点を当てようと。そういう意味で"半径3メートル以内"にしました。自分が見て、"面白いのになんで有名になってないんだろう"とか、"もっと広まってほしい"といった部分を大事にして、できることをしようと意識を変えたんです。

チャンスを掴みとるためにラブレターのような企画書を作りまくって、人に会いに行きまくり、伝えまくって、一つひとつカタチにしていって。居酒屋・甘太郎で太郎割っていう仕事をさせてもらったのが、すごくその象徴だったんですよね。フェイスブックをきっかけに自らアクションして、仕事が決まっていって。こういうやり方もできるんだなと思いました。

さっきも小山さんと箭内さんの話をしたかと思うんですけど、お二人とちゃんと話をしたことって実はなくて。僕は「人生を変えるのは、人、本、旅。」という言葉がすごく好きで、今日みたいな場に来て人から刺激をうけることもいいですが、人に会えなければ、本でもいいと思うんですよね。その人が書いている本を読めば考え方を知れるので。小山さんと箭内さんの本は全部買って読んだので、こういうふうな考え方をしてるんだとか、同じ内容を何度も本で使っているなと思ったりして。

丸橋:あ、このセリフ聞いたことあるなぁ、みたいな。

阿部先輩:そう、書き方を変えて。

丸橋:(笑)

阿部先輩:でも、何度も書いてあることは大切なことなんだと気づけます。心の師匠をつくるというのは、今自分がいる環境にはいない人でも、自分からその人がいる場所に会いに行くことや、本を読みつづけることでもできると思うんですよね。そういうのは、待たない方がいいなと思っています。

先輩を越えるのは、後輩の仕事だ。

阿部さん:次は、ある仕事に師匠と一緒に入ったときに、営業の先輩からいただいた言葉なんです。師匠ってやっぱりすごいんですよね。自分がものすごく考えて打ち合わせに臨んでも、うわー、全然まだまだだなってことが沢山あって。大先輩と一緒に仕事させていただく時に良いのは、師匠が何に悩んで何を考えて何を決断しているのかっていうのを間近でみることができること。そういうのを見て真似したりするのがすごく大事だと思ってます。

そんな時に、営業の先輩からふともらったメールが、意識をすごく変えてくれたんです。"すごい背中を見ているね。そして、弟子は師匠を越えるものだからね。楽しみです。"っていうような…。それで、「あ、越えなきゃ!」と。先輩から刺激をもらって自分が成長していった先に、「アイツって俺の下についてたんだよね」と先輩が誇れるようになんなきゃと思ったんです。越えるっていっても先輩を凌駕していくことは、なかなかないと思うんですけど……。先輩に「自分にできないことをアイツがやってんだよね」と思ってもらえるようになんなきゃと思い直しました。もらってばっかじゃいけないなと。

この営業の先輩からもらった言葉は、仕事にもすごく生きてて。講師をしている宣伝会議コピーライター養成講座 先輩コースの、告知ポスターに"先輩を越えるのは、後輩の仕事だ。"というコピーを書きました。これは、あの営業の先輩の言葉から来ています。

阿部先輩が“先輩からもらった10の言葉”
3「君には営業のほうが向いてるよ。」
4「良かったな。また、コピーうまくなるな。」
5「広告とは応援である。」
6「勝手にテコ入れする。」
7「弟子は師匠を越えるものだからね。」

 

第3話に続きます。


この記事は2018年6月7日に公開されたものです。